昨今、クロスオーバーSUVと呼ばれるジャンルの自動車が流行しています。力強さと美しさを併せ持ったボディは、世界中の人を魅力し続けています。
一方で、クロスオーバーSUVと同ジャンルでありながら、地味な印象のあるクロスカントリー車と呼ばれるジャンルも存在します。本格的な悪路走破性を持った漢のSUVです。トヨタ・ランドクルーザーやスズキ・ジムニーなどの長い歴史を持つ一部の車種以外は、日の目を浴びることなく、生産終了となってしまいました。
「世界一過酷なモータースポーツ」と呼ばれる競技において、数多の優勝を果たした伝説的な日本車があります。30年以上に渡って開催されている競技にもかからわず、その日本車はメーカーを最多優勝へと導きました。
その記録は2018年現在でも破られておらず、ここ十数年でその記録を塗り替えることは難しいとされています。車好きな皆さんなら、もうわかりますよね。三菱・パジェロ。世界一過酷なモータースポーツである「ダカールラリー」で大活躍をした、世界的知名度の高い本格クロスカントリー車です。
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ダカールラリーで大活躍した三菱の看板車種、パジェロ
そもそも「ダカールラリーって何なの?」って思っている人も多いでしょう。日本は自動車大国なのに、モータースポーツの知名度は本当に低いです。ホンダがF1に参戦していることを知っている一般人がどれだけいるのでしょうか。そのくらい、日本におけるモータースポーツは地味極まりないです。
先ほども少しお話しましたが、ダカールラリーは「世界一過酷なモータースポーツ」と呼ばれる競技で、元々はフランスのパリからセネガル共和国のダカールを走り切る、というモノでした。開催年によって多少増減しますが、10,000kmもの長距離を約20日間に渡って走行します。
まるで池のような水たまりやドライバーの精神と体力をむしばむ灼熱の砂漠など、数々の難所を避けることなく高速走行する、本当に過酷な競技で、これまで死者や負傷者は数知れず。
その名の通り、これまではアフリカ大陸を中心に開催されていましたが、略奪や銃撃、テロリストからの脅迫など、競技以外での危険性が高まり、開催地を南アメリカ大陸へと変更しました。色んな意味で過酷極まりない競技です、ホント。
そんな過酷な競技に何度も出場し、数々の優勝記録を打ち立てた名車が三菱・パジェロです。
三菱の代表車種と言えば、ランサーエボリューションが思い浮かびますが、実はパジェロも世界的知名度があります。ここ日本では、ひょっとするとパジェロの方がその名を知る人が多いかもしれません。そのくらい、パジェロは三菱にとって欠かせない自動車なんです。
初代(1982~1991)
初代パジェロが発売した当時、日本における4輪駆動車として非常に知名度があったジープ。ジープと言ってもアメ車のジープではありません。その昔、ジープは自動車のジャンルのような感じで、日本におけるジープは三菱製の車両が人気だったのです。
三菱・ジープの知名度が高かったということもあり、パジェロの名が広まるのはそう遅くありませんでした。
本格クロスカントリー車には必須とも言えるラダーフレームを採用し、3ドアボディ(ショート)と5ドアボディ(ロング)の2種類のボディタイプを設定。非常に豊富なエンジンラインナップも特徴のひとつでした。駆動方式はもちろん4WD(パートタイム)です。
30年以上も前に発売されたモデルでありながら、非常に武骨で漢くさい外観を実現しています。当たり前の話なんですが、パジェロは30年前もパジェロなんですね。発売から3年後、長い歴史の中で最多の出場台数(362台)を誇る第7回ダカールラリーで見事優勝を果たします。
競技のノウハウやマシンの技術が伴っていないにもかかわらず、です。あまりにも過酷すぎるため、第7回ダカールラリーに出場した車両のうち、わずか101台しか完走することができませんでした。その中での初優勝は、まさに快挙だと言えるでしょう。
2代目(1991~1999)
9年にも渡るモデルライフを終え、パジェロはついにフルモデルチェンジを行いました。この時点で世界は、パジェロがどう進化を遂げるのか非常に注目していたんです。三菱はその期待を良い意味で裏切ります。
2代目パジェロは実用車としても、クロスカントリー車としても高いレベルを実現した名車でした。また、スーパーセレクト4WDやマルチモードABSの採用など、先進性も非常に高く、パジェロの歴史の中でも特に輝いていたモデルだと思います。
大まかなボディタイプは3ドアボディ(ショート)、5ドアボディ(ロング)、2ドアソフトトップ(Jトップ)、5ドアバン(ロング)の4種類です。しかし、多彩なエンジンラインナップに加え、ルーフの高さやオーバーフェンダーの有無など、細かな装備の差も含めると、グレードは30種類以上もラインナップされていたのだとか。
多くのユーザーに評価された2代目パジェロは、競技の世界でも高く評価されました。2代目パジェロも初代パジェロに引き続き、ダカールラリーに参戦。初代パジェロでの優勝時とは違い、ノウハウや技術も蓄積しています。
その結果、なんと4回もの優勝を成し遂げたのです。そのうちの1回は、日本人ドライバーの篠塚健次郎さんがもたらしたものでした。日本人が操る日本のマシンが世界を制する。当時の車好きは、飛び上がるほど興奮したことでしょう。
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3代目(1999~2006)
フルモデルチェンジによって、さらなる進化を遂げた3代目パジェロは大きな転換期を迎えることになります。これまで、パジェロはクロスカントリー車には必須とも言えるラダーフレームを採用していました。
しかし、3代目パジェロではラダーフレーム・ビルトイン・モノコックボディを初採用。これはモノコックボディにラダーフレームを溶接した新たな形で、ボディの大幅な軽量化を実現。また、低重心化による操縦安定性の向上。ボディ剛性も格段に向上しています。
ボディタイプは3ドアボディ(ショート)と5ドアボディ(ロング)の2種類。エンジンラインナップは4種類と多彩ですが、2代目パジェロの豊富すぎてわかりづらいグレード展開を反省したのか、多少控えめになっていますね。
駆動方式は2代目パジェロで初採用した、スーパーセレクト4WDの進化版、スーパーセレクト4WD IIを採用していて、悪路走破性がさらに高められていることがわかります。
3代目パジェロが発売開始となって2年後の2001年、ダカールラリーに新たなクラスが新設されました。このクラス変更により、市販車ベースのマシンではなくオリジナルマシンで出場できるようになりました。
ですが、三菱はマシン開発に時間がかかってしまい、実際にオリジナルマシンが投入できたのは、さらに2年後の2003年。2001年と2002年は3代目パジェロでの参戦を余儀なくされますが、普通に連覇を達成してしまいます。2002年のドライバーは増岡浩さん。篠塚健次郎さんに続く、2人目の日本人ドライバーです。
そして、2003年。ダカールラリーを制するためのオリジナルマシンが、ついに完成します。
パジェロエボリューション(2003~2008)
三菱はランサーエボリューションと同様、自社の先進技術を惜しみなく投入したハイパフォーマンスマシンに「エボリューション」の名を授けました。
パジェロエボリューションは市販化されていない、完全なるラリーマシンなので、そのほかのパジェロと比べ、その知名度は劣るかもしれません。パジェロエボリューションはパジェロ史上、いや、ダカールラリー史上最強のマシンであることに間違いはありません。
年々レギュレーションなどに合わせて変更されるスペックについては記載しませんが、三菱がこれまでに培ってきたモノすべてを活かしたスーパーマシンは、あまりにも強すぎました。
パジェロエボリューションは、初出場の2003年から2007年に渡る、計5回のダカールラリーにおいて優勝を飾ります。要するに、5連覇です。3代目パジェロの成績も考慮すると、三菱はなんと7連覇を成し遂げたことになります。
6連覇を果たすべく参戦した2008年の第30回ダカールラリーは開催中止となり、その代替として、セントラル・ヨーロッパ・ラリーが開催されました。慣れない場所での開催もあって、残念ながらパジェロエボリューションは優勝を逃してしまいます。
大本命の増岡・メモンペアはタイヤ交換中に、今大会の優勝者であるカルロス・サインツが駆る車両と接触。その結果、コドライバーであるメモンは足首を骨折し、リタイアに追い込まれてしまいました。偶然起きた出来事ですが、相手が優勝ペアということもあり、何とも腑に落ちません。
しかし、もう1台のパジェロエボリューションを駆るステファン・ペテランセルが第2位に入賞。増岡・メモンペアのリタイアがなければ、1・2フィニッシュの可能性も十分にありました。むしろ、これまでの成績を考慮すればその可能性は高いと言えたでしょう。
そのくらい、パジェロエボリューションはすごいマシンでした。ですが、リーマン・ショックを筆頭とする世界情勢悪化により、三菱は2009年以降のダカールラリー撤退を表明。三菱は2005年にもWRCを撤退していて、ラリーの三菱は姿を消してしまったのです。
その後のパジェロはと言うと、実は三菱がダカールラリー撤退を表明した2009年、すでに4代目パジェロは発売から3年が経ち、熟成を重ねているところでした。ダカールラリーはとっくの昔に市販車ベースではなくなっていたので、パジェロエボリューションとは全く関係のない形で、3代目パジェロはフルモデルチェンジを行っていたのです。
4代目(2006~現在)
2018年現在でも販売が続けられている4代目パジェロ。フルモデルチェンジを行ったタイミングが2006年なので、すでに発売から12年が経過していることになります。熟成を重ねたラダーフレーム・ビルトイン・モノコックボディを引き続き採用し、3代目パジェロよりも高いレベルでのボディ剛性を実現しています。
また、ダカールラリーのベース車両という役割を終えたことで、ラグジュアリー感を演出した外観・内装を採用しました。もちろん、これまでの悪路走破性は損なうことなく、乗り心地なども向上しています。
ボディタイプはこれまでと同様、3ドアボディ(ショート)と5ドアボディ(ロング)を設定していましたが、今年2月にショートボディの生産が終了し、残るはロングボディのみとなってしまいました。
実はロングボディも、歩行者保護法規の強化によって、2019年8月以降の生産ができません。つまり、この4代目パジェロも2019年半ばには生産終了してしまうというワケです。三菱に残された選択肢は、このまま新型モデルを開発せずに「パジェロ」ブランドを終わらせてしまうか、もしくは新型モデルの開発を進めるかの2択ですよね。
昨今の三菱の様子を見ると、このまま「パジェロ」ブランドを途絶えさせてしまうのでは、と心配で堪りませんでしたが、三菱社内では、新型パジェロを発売する方向で動いているようです。海外で販売されているパジェロスポーツが日本でも発売されるとの情報がありますが、アウトランダーとキャラクターが被ってしまうため、その可能性は低いと私は考えています。
そうなると、三菱は新型パジェロを2019年8月に発売するべく、開発を急いでいるはずです。
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新型パジェロはどんな進化を遂げる?
では、新型パジェロはいったいどんな自動車になるのでしょう。そもそもパジェロは本格的なクロスカントリー車で、様々な種類のボディタイプやエンジンラインナップを用意していました。しかし、このご時勢でそれは難しいのではないかと思います。
現在は絶賛売り出し中のエクリプスクロスに加え、現在の三菱の実質的なフラッグシップモデルであるアウトランダーもあるので、ラインナップの幅を抑え、ターゲットを限定して販売すると予想することができます。
そもそもターゲットを限定せず、同じジャンルの車を同メーカーで堂々と販売するのであれば、とっくにパジェロスポーツが日本市場に投入されているでしょう。
ただし、パジェロスポーツは7人乗りのクロスオーバーSUVに分類されます。クロスオーバーSUVという点でアウトランダーと被り、7人乗りという点でアウトランダー、デリカ:D5と被ります。ただでさえ国内シェアの低い三菱が、そんなワケのわからない商売をするとは思えません。
マツダのように、少なくても確実に販売が見込める車づくりを行うならば、ショートボディとロングボディの統合が有力なのではないでしょうか。つまり、5人乗りの5ドアボディです。面白みはないですが、これならばクロスオーバーSUVとも戦いつつ、従来のクロスカントリー車として、旨味を消すことなく販売することが可能です。
外観はパジェロスポーツよりも武骨で力強いボディを採用。エクリプスクロスとの差別化を図ります。三菱のフロントマスクアイデンティティである「ダイナミックシールド」は確実に採用されますが、デザイン的にはアウトランダーのような、動と静が絡み合ったデザイン。エクリプスクロスのように攻撃的ではありません。
駆動方式はもちろん4WDで、三菱独自の4輪電子制御システム「S-AWC」が搭載。高い走行性能を実現することは間違いありません。ラダーフレーム・ビルトイン・モノコックボディも引き続き採用されるので、悪路走破性の高さも魅力のひとつです。
続いて、新型パジェロのスペックをチェックしてみましょう。
新型パジェロのスペック(主要諸元)
全長×全幅×全高(mm) | 4,785×1,815×1,800 |
車両重量(kg) | 2,710 |
ホイールベース(mm) | 2,800 |
エンジン詳細(cc) | 2.4Lディーゼルエンジン |
エンジン最高出力[kW(ps)/rpm]※ | 133(181)/3,500 |
エンジン最大トルク[Nm(kgm)/rpm]※ | 430(43.0)/2,500 |
モーター最高出力[kW(ps)] | — |
トランスミッション | 8AT |
JC08モード燃費(km/l) | 10~15km/L |
価格 | — |
※上記はパジェロスポーツのスペックです。
新型パジェロのスペックについては、未だ信ぴょう性の高い情報が少ないので、パジェロスポーツのスペックを元に考察を進めていきたいと思います。
まずは新型パジェロのボディサイズを考察してみましょう。パジェロスポーツは日本国内で考えると、大型クロスオーバーSUVに分類されると思います。ですが、現行4代目パジェロのロングボディは、パジェロスポーツよりもさらに一回りほど大きいです。新型パジェロの全長はパジェロスポーツより小さく、全幅と全高はパジェロスポーツよりも大きいと予想します。
車両重量はパジェロスポーツと同程度の2,000kg前後です。パジェロスポーツのホイールベースは2,800mmですが、現行4代目パジェロのホイールベースは2,780mmです。新型パジェロのホイールベースは、現行4代目パジェロと同様、2,780mmとなるでしょう。
ちなみに、三菱は今やルノー日産グループの傘下となり、今後の新型車は共通プラットフォームを流用することになっています。しかし、新型パジェロについてはおそらく別です。
現在のルノー日産グループには、新型パジェロにふさわしいプラットフォームが見受けられません。パジェロだけのために、新たなプラットフォームを設計するというワケにもいかず、新型パジェロは独自路線を突き進むことになります。
現行4代目パジェロは、3.0L以上の大排気量エンジンを中心としたエンジンラインナップとなっています。パジェロスポーツのエンジンラインナップはすべて3.0L未満です。一見、非力にも感じるエンジンですが、2tを超える巨体を動かすことは容易いです。しかし、現行4代目パジェロのエンジンとは全くの別物だと考えた方が良いでしょう。
新型パジェロのエンジンラインナップの詳細は未だ不明です。現行4代目パジェロのV6エンジンを搭載する可能性は高いですが、世界的流行であるダウンサイジングターボを採用するかもしれません。これまでのパジェロは、多彩なエンジンラインナップを展開してきたので、どちらも採用するという可能性も十分にあります。
トランスミッションは5ATと5MTが中心となって、世界中に展開されることになります。さらに、上級グレードにはパジェロスポーツの8ATが設定される可能性が高いです。
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最後に
ルノー日産グループは、大手自動車グループよりもいち早くEVに目をつけ、電動化を推し進めています。その傘下となった三菱もその限りではなく、実際にアウトランダーはPHEVモデルの販売が好調です。エクリプスクロスやRVRもPHEVモデルが設定されるという噂もあります。
しかし、新型パジェロはそれらと同じ路線ではない様子。ランサーエボリューションの歴史を途絶えさせた三菱ですが、パジェロに関してはそのブランドを存続させるつもりです。新型パジェロはこれまでと同様に、オフロードの覇者として、その魅力を追求していってほしいですね。
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