ここ数年で最も大きな変化を遂げたメーカーと言えばマツダでしょう。今マツダ車が多くの注目を集めています。
社運をかけ全社員一丸となって始まったマツダの魂動デザインプロジェクトは、マツダという企業に大きな変化を起こすきっかけになりました。今、マツダは大きく進化し、かつてどの日本車メーカーも成し得なかった世界に通用する独立したブランド戦略の実現まで後一歩の所まで来ています。
マツダ車がかっこいい!いや、マツダ車ってみんな同じ顔やん…。そんな風に評価の別れるマツダ車ですが、それほど人々の関心が高いのも車のデザイン面というわけです。
今回はそんなマツダという会社を生まれ変わらせたマツダデザインの力に迫ります。
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デザインの力により大きく生まれ変わったマツダ
最近巷を賑わせているマツダお得意の魂動デザインは、2010年に「魂動-Soul of Motion」というスローガンを掲げて誕生しました。その時現れたコンセプトカーは「SHINARI」。このデザインが好評で、その後出たアテンザとCX-5で魂動デザインの存在が世間に広く知れ渡りました。
まぁこの成功にはスカイアクティブテクノロジーの功績も大きく関わっているのですが、続く2013年にアクセラが、2014年にデミオが、2015年にCX-3とロードスターがそれぞれ新しくなって登場しマツダの勢いを加速させていきました。もうこの頃にはすっかり魂動デザインが受け入れられ、「マツダは生まれ変わった」と多くの人に認知されるようになりました。
実際2010年を起点にマツダの流れが変わり、2013年から現在まで前年比5%~9%と顕著な伸びを見せています。ここまでマツダを支えたのは間違いなくデザインの力ということができるでしょう。
シェア2パーセントの強み
ここまでマツダを個性的で魅力的に変えた理由の一つとして、マツダ独自のマーケティング、ブランディング戦略がありました。マツダはトヨタやホンダのような大きな世界シェアではありません。数字にするとわずか2%ほどです。しかしこの数字を逆手に取り「我々の車作りは大衆向けではなく、今支持してくれている2%のマツダファン達に届けるものだ。個性的なものを会社一丸となって丁寧に大切に作っていこう」このような姿勢でマツダは他社には真似出来ないような日本車離れした美しいプロポーションを持つ車を数多く市場に送り出していきました。
マツダのデザインはこうして生まれる。マツダのブランド戦略
マツダは車の持つ美しさをよく研究しています。
マツダのマーケティングは京都の老舗料亭のようなものということができます。なぜならマツダは統一されたマツダ魂動デザインをはじめ、自社のビジョンとして本当に良いと思うもの、大好きなもの、美しいと感じるものを、プロト製作段階から工場生産ラインまで完璧なまでに具現化させ、その価値観を理解し共感してくれるユーザーだけに響くような経済活動を行っているからです。これは大多数向けではない常連さん御用達の老舗料亭の採る戦略に似ています。
沢山の人に分かってもらう必要はない。こんなメッセージがマツダから聞こえてきます。マツダのデザインは、マーケティング現場で当たり前のように行われるダイレクトレスポンスマーケティングを重視していません。アップルのスティーブジョブズ氏が昔こう言っていました。「消費者は自分が欲しいものを分かっていない」と。つまりマツダは自分のほしいものを明確に表現することのできない消費者に意見を聞くのは止めて、完全に自社発信のデザインを分かってくれる人にだけ訴えかける戦略を採ったのです。
こうしたアグレッシブな戦略を取り続けた結果、マツダ車にはひと目でそれと分かるアイデンティティーが宿り、一ブランドデザインとしてマツダ車のデザインが統一され熱狂的な固定ファンを生み出すことに成功しました。
それぞれのモデルに与えられた御神体の存在
まず、魂動デザインというものがどういうイメージなのかをご説明します。魂動デザインは生き物の一瞬の動きを表すデザイン手法で、一定の形を持たない動的な物体を一つの形にするわけですから、イメージを開発チームで共有化するのに困難を極めたと聞きます。
車のデザインというものは売り上げに大きく関わってきますから、デザイナーの意図している脳内スケッチが開発スタッフ全員に伝わらないと魅力の足りないものになってしまうため、共通認識を生むための強い訴求力を持つアイテムが必要でした。
マツダの開発現場では従来までのクレイモック(粘土やプラスチックなどを使ったデザイン造形面確認用の試作モデル)作りに加え、デザインカスケードと呼ばれるデザイナーよる全部門へのプレゼンテーションが行われました。通常このような打ち合わせは社内トップだけで完結される極秘事項なのですが、マツダはこの部分に他社よりもリソースを投入することで社内におけるデザインウェイトを上げていったのでした。
マツダのデザイン本部にはデザイナーやモデラーがいて、モデラーはさらに粘土専門のクレイモデラーと樹脂やメタルを幅広く使用するハードモデラー、それにデジタル部門のデジタルモデラーに分かれます。その中のクレイモデラーは匠の域に達していて、美しさを基準にデザイナーと同等の立場から造形を行っていきます。
そしてクレイモデラーたちの手によって想像を超えるものがさらに用意されます。それはよりレベルの高いデザインをデザイナーが表現ようできるようにと作られた「御神体」と呼ばれるもので、芸術品にも似た躍動感みなぎる金属の塊のようなものです。
この御神体は開発中の車の魂動デザインがどういったコンセプトで描かれているのかというイメージを全身で表現したアートのようなもので、デザイナーの表現する難しい説明を言葉だけでなく目の前の造形物で製造現場に伝えていくという使命を持ったものでした。こうしてモデラーとデザイナーが切磋琢磨しあい、非常にコストの掛かる工程を経てマツダの魂動デザインは磨かれていきました。
クレイモデラー達が作った御神体ですが、例えばチーターが動き出す瞬間の筋肉の形や力の伝わり方を表現したタイプの魂動デザインオブジェがあります。これをWEB上で言葉だけで伝えるのは私の表現力では不可能に近いので、参考写真を元に私が手書きでスケッチを書いてみました。それが下の絵です。
これはチーターが生み出すダイナミズムを思いっきり抽象化した金属製のデザインオブジェを模写したものですが、少しは雰囲気が伝わりましたでしょうか?うまく書けなくて申し訳ないです。こんな感じの箱根彫刻の森美術館にありそうな基準となる造形物があるおかげで、マツダの車のデザインは頭一つ飛び抜け、日本車離れしたものとなったのです。
マツダのカラー戦略
マツダは「カラーも造形の一部」としています。魂動デザインを代表するボディーカラーといえばすっかりおなじみの「ソウルレッドプレミアムメタリック」ですが、これは魂動デザインをより引き立たせるために、深みと鮮やかさを両立させたマツダが生み出した新しい塗装技術によって生み出されたカラーです。
さらに2017年に登場した新型CX-5に設定された「ソウルレッドクリスタルメタリック」は前述したプレミアムメタリックよりもさらに彩度や深みが向上されたカラーです。秘密は新開発の顔料と反射吸収層にあります。これらの新開発素材により、光の反射や透明感をコントロールし、これまでにない豊かな表情の赤色を再現することに成功しました。
この特殊な赤色を開発するときも、前述したデザインカスケードの時と同じように、各部門の代表者を集めイメージを共有したそうです。その結果、より深みのある心に響いてくるような赤が誕生したのでした。
世界的評価が高まったマツダ
こうした活動により近年マツダの企業価値はぐんぐん上昇し、日経BPコンサルティングによるブランドジャパンという評価調査では、2014年の179位から2016年には108位と大きく順位を上げることになりました。
数々の要因があるとは思いますが、デザイン面で言えばやはり2016年にNDロードスターがワールドカーオブザイヤーとワールドカーデザインオブザイヤーを2つ同時に受賞するという快挙を成し遂げたことが大きかったと思います。
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マツダ魂動デザインの考察
マツダは確かに変わりました。魂動デザインが市場に受け入れられ世界からの評価も固まった今、マツダディーラーに足を運ぶと以前とは確実に違う雰囲気を肌で感じとることができます。
重厚で落ち着いた黒を貴重とした販売スペースは、訪れたお客さんがゆっくり寛げるように様々な工夫が施され満足な時間を過ごすことができます。それに社員さん達の士気の高さにも気付きます。それはグイグイ営業に来るという意味ではなく、マツダ車という自社商品に自信を持っていて自然体で接してくれるような、以前のマツダディーラーからは考えられないような余裕を感じるのです。だからお客さんは落ち着いて車を見ることができるため、ディーラーのアンケートでは「居心地が良くて待ち時間が苦にならない」というような良回答が多数あったそうです。
日本人は世界的に見るとデザインを軽んじる傾向があります。確かに安全や環境といった面と比べるとデザインというものが持つ説得力は日本人にとって弱いかもしれません。しかし人生を楽しくするのにデザインのチカラは必須です。欧米などの自動車「文化」先進国では合理性と独創性が高次元で融合したものが長く評価を受け続ける傾向が強いです。ワクワクするのに必要なものはその人の感性とそれに響くプロダクトの両方です。心と心が響き合う、そんな相手と出会えた時、人の魂は高ぶるのです。
長年、日本の車メーカーは自己の存在を固めるためにブランド戦略、特にデザイン面でのアイデンティティー創造に勤しんできました。過去にはトヨタや日産、ホンダなどのビック3がさまざまな角度から世界へ訴えかけ続けましたが、日本車は機能面こそ評価されどデザインを含めた情緒面、しいてはあらゆる背景を鑑みたコンテキストの部分で真の評価を受けることはほぼ無かったと思います。
そんなところにきてこの難題に果敢にチャレンジし、遂にマツダがやってのけました。今ではどのマツダ車を見てもマツダのデザインだと分かります。そして統一感がありながら各車それぞれの主張を持っています。さらに存在感を確固たるものにする車としての技術面や企業体としてのビジョンも世界一級品です。
今から10年前、一体誰が今のマツダの姿を想像できたでしょうか。ズームズームは伊達じゃなかったというわけです。私はジャパンプレミアムにのし上がるメーカーはスバルだとずっと思っていましたが、どうやらその役目はマツダになりそうです。これからもマツダが2%戦略を取り続ける限り、一本芯の通ったブレない車達がリリースされ続けていくでしょう。
私はマツダの躍進を、一日本人として本当に誇らしく感じています。マツダ頑張れ。マツダの勇気を心から応援していきたいと思います。
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