ハイブリッドカーが一般的になってからだいぶ経った今日このごろ。もうすっかり国民車としての地位は確固たるものになりました。
しかし多くの人がハイブリッドカーを一括りにイメージしていて、メーカー間の機構や主張の違いを意識しているユーザーはごく少数でしょう。そこで今回は車メーカー別にハイブリッド機構を比較してみることにしました。
各メーカーごとに仕組みがぜんぜん違うので、将来登場してくる面白カーを予測する手がかりにもなります。これで今後のあなたの面白車選びに役に立つことでしょう。
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ハイブリッド車メーカー比較!
それでは順番に解説していきます。まず現在、ハイブリッドシステムには大きく分けて3つの種類があります。それが「シリーズ方式」「シリーズ・パラレル方式」「パラレル方式」です。簡単にご説明すると、
- シリーズ方式はモーターを動力源にしてエンジンは充電用に使用。
- シリーズ・パラレル方式はモーター・エンジン共に動力源にして出力するが動力伝達は別経路。別名スプリット方式とも呼ぶ。
- パラレル方式はモーター・エンジン共に動力源にして動力伝達も同じ経路。ただしエンジンが主体でモーターは補助。
となります。これをモーター、エンジンそれぞれが得意なシーンに合わせ最適な仕事をしていくというものです。その仕組みと味付けにより各車のハイブリッドカーの走行フィールはえらい違いとなります。面白いですね。
上の3方式を分かりやすくご説明するためにエンジンを夫、モーターを妻として夫婦の話で例えると(笑)、
- シリーズ方式は妻がメインで外で働きお金も管理、夫は主夫として家庭を担当。
- シリーズ・パラレル方式は夫、妻共に働く共働き夫婦だが、お財布は別々。
- パラレル方式は妻は個人事業主の夫の事業を手伝う専従者でお財布は一緒。
そう考えるとどれもこれも近年流行り始めている新しいライフスタイルに似ていますね。今までの普通のガソリン車はいわゆる夫だけが働く昭和のサラリーマン世帯というわけです。
ハイブリッドカーを考えるときの大前提として、モーターとエンジンの現在の特性の違いを理解しておく必要があります。一般的にモーターは発進・低速域から最大トルクを発生させ、さらに効率を無視すれば高回転まで耐えうる特性によりトランスミッションが無くてもなんとかなってしまうという特徴があります。それに対しエンジンは発進時や低速時などがトルクも低く最もエネルギー効率が悪くなりますが、一定速巡航などではモーター以上のエネルギー効率を誇ります。さらに高回転域での仕事率つまり馬力はエンジンの方が優秀な傾向があります。
このようにモーターとエンジンでは得意不得意がそれぞれ違い、それらをどうやって最大効率で回していくのかというさじ加減が、メーカーによって変わってくるというわけです。さらにトヨタやホンダをはじめ多くのハイブリッド方式は各メーカーが特許を取っているので様々な思惑が交差しているのです。
トヨタのハイブリッドシステム
まずはハイブリッドといえばトヨタ、トヨタといえばハイブリッド。世界一の自動車メーカーの採用するハイブリッドシステムからご紹介していきましょう。
トヨタのハイブリッドシステムはシリーズパラレル方式です。つまり共働き方式ですね。トヨタは20年近く前から基本原理はずっと変えず受け継がれており、THS(TOYOTA Hybrid System)ⅠやTHSⅡなんて呼び方をされています。これはプリウスやAQUAにも採用されている方式で、発進から低速走行時などのエンジンが苦手とする分野をモーターが受け持ち、一定速度まで車速が上がると巡航時のエネルギー効率に優れたエンジンが受け持つという仕組みです。その際、各セクションでエネルギーが余るような時、バッテリーに充電されます。
しかしトヨタのTHS/THSⅡ方式は変速システムを持たないので、モーターを高回転まで使わないといけません。これだと高速域のモーターのトルクは非常に小さいものになり、効率は悪化します。
トヨタは業界に先駆けてハイブリッドシステムを開発・実現・販売し成功を収めたメーカーですが、必ずしもトヨタのハイブリッドシステムが全ての面において優れているというわけではありません。それを証拠に、後発のどのメーカーもトヨタの展開するTHS/THSⅡを採用しないという現実があり、実際トヨタのハイブリッドシステムはカタログ燃費は最高のものとなるかわりに運動性能はあまり満足のいくものではないという評価が定説となっています。
とはいえ、トヨタの基幹となるこのハイブリッドシステムは初代プリウスからほとんど変わっておらず、コンパクトカーから大型車まで同じ仕組みで問題なく動いています。そしてなにより「トヨタの電気式CVTはあらゆる場面で80点以上の効率を叩き出す優れたシステム」と他車メーカーの技術者が賞賛したことからも分かるとおり、総合成績ではトヨタのハイブリッドシステムは世界に誇ることのできる素晴らしい仕組みであることは間違いないでしょう。
ホンダのハイブリッドシステム
ホンダもハイブリッド技術には相当力を入れています。実質、国内ではトヨタとホンダがハイブリッドメーカーの2大巨頭として君臨しているイメージです。
ホンダのハイブリッドシステムは数種類ありますが、メインとなるのはパラレル方式です。個人事業主の夫と専従者の妻方式ですね。そして搭載されるモーターの数によって呼び名が変わります。旧世代の「SPORT HYBRID IMA」や、主軸の「SPORT HYBRID i-DCD」、Accord hybridなどに採用された「SPORT HYBRID i-MMD」、新型NSXやLEGENDで採用される「SPORT HYBRID SH-AWD」等。名称にSPORTという言葉を入れてくるあたりがホンダの主張を感じるところですね。
ホンダのハイブリッドシステムは初期のものこそ簡易ハイブリッド(IMA)だったためトヨタに完敗、その後刷新します。そうして生まれた新しいホンダハイブリッドシステムはトヨタと同様、モーターとエンジンの両方が動力発生に参加します。
- 出来るだけ簡単にご説明すると、
IMA・・・エンジンをモーターでアシスト - i-MMD・・・エンジンで発電しモーターで走行
- i-DCD・・・AT内部にモーターを組み込み、エンジンとモーターをシーンごとに使い分ける
- SH-AWD・・・フロント1エンジン+1モーター、リア2モーターで駆動する次世代4輪駆動システム
i-MMDはシリーズ方式となります。他に、Fit3をはじめ多くの車種に採用されているi-DCDはパラレル方式でありながらエンジンとモーターを電磁クラッチで分断できるので、エンジンを完全に停止することも可能です。さらに7速DCTと呼ばれる2組の平歯ギアを交互に切り替えるミッションにより、MT並の伝達効率を獲得しながらスピーディーな変速を実現することができています。
それにしてもホンダは4種類もハイブリッドシステムがあるのですね。なんでもとりあえず試してみるという企業風土をひしひしと感じます。
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日産のハイブリッドシステム
最近巷を賑わせているのが日産のハイブリッドカーです。
そもそも日産はEVに力を入れていて、ハイブリッド事業に関してはそれほど入れ込まないスタイルでした。そうした日産のハイブリッドシステムもS-HYBRID(スマートシンプルハイブリッド)など基本はパラレル方式、もしくは簡易パラレル方式ですが、圧倒的な存在感でデビューした2代目ノート、ノートe-powerはシリーズ方式を採用したハイブリッドカーです。実質このノートに搭載されたハイブリッドシステムが今後の日産の主力機構になると思われるので詳しく解説していきます。因みにこれは妻がバリバリ働きに出る方式ですね。
ノートに搭載されるモーターは電気自動車リーフに搭載されたものと同じです。そしてエンジンは発電のためだけに存在し、動力には参加しません。ここが他メーカーとの大きな違いとなり、日産のハイブリッドカーはまるでEVにでも乗っているかのようなフィーリングを持ちます。実際アクアよりも走行性能が高く、その上機構的にも比較的シンプルでリーズナブルですから将来に期待してしまいます。
ただし、この教科書的なシリーズハイブリッドはリーフの変身バージョンといえるでしょう。ノートe-powerは実質リーフの大容量バッテリーを小型化し、その分を小型エンジンでまかなうというものです。
ノートe-powerの燃費はカタログ値だけではライバルアクアを上をいきます。これだけ見ると日産凄い!なのですが、実燃費ではアクアの方が上というのがユーザーの感想のようです。ただし、車の面白さは燃費だけではありません。昔から日産好きは運転好きであることが多く、トヨタ車では味わえないドライブフィールやカッチリ感、どっしり感といったファジーだけど譲れない要素を味わうために日産車を選んできたという背景があります。
だから運転好きにもきっと満足できるハイブリッドカーがノートになるのかなと思います。
スバルのハイブリッドシステム
スバルのハイブリッドシステムはパラレル方式です。ホンダのIMA方式と同じものと考えて良いでしょう。
開発にはトヨタも関わっており、最高の技術者集団が揃うスバルですからシンプルでありながら完成度も高く、王道スタイルといえるでしょう。今後は得意な4WD技術を親和性の高いホンダのSH-AWDのような次世代ハイブリッドシステムを開発するのではないか?と思います。
マツダのハイブリッドシステム
今回ご紹介するメーカーのなかでもマツダはダークホースだと思います。
マツダは唯一アクセラのみハイブリッドを搭載していて、内容はトヨタのTHSⅡとなります。それ以外の車種にはスズキのエネチャージと良く似たシンプルなマイルドハイブリッドを投入うしています。
マツダはスカイアクティブ技術でガソリン車のエネルギー構造を大幅に向上させました。つまり車メーカーとして内燃機関の本質に向き合ってきたのです。その研究内容はエンジンピストン内部の爆発の美しさを解明するというとんでもないようなもので、どちらかといえばヨーロッパのメーカーの発想に近いものがあります。
スカイアクティブ搭載車はハイブリッドカー並の燃費性能を叩き出しながら運転する楽しさは全くスポイルされていない素晴らしい乗り物といえるもので、さすが2%の人間に響く車作りを行う独創的なマツダらしい結果となりました。※マツダは新入社員に「我社の国内シェアは2%、だから万人に受けるものではなく2%の人間の心に響くモノ作りをしよう」と語りかけるそうです。
そんなマツダが今後展開するハイブリッドシステムはやはり内燃機関がメインとなり、ハイブリッドの主役となるモーターはあくまでアシストとしての役割しかもたないというスタイルです。さらにマツダのハイブリッドカーに搭載されるバッテリーはスーパーキャパシタと呼ばれるものです。
このバッテリーは、リチウムイオンバッテリーや鉛蓄電池と比べて電気を溜め込むことは苦手なかわりに電気の入出力に優れているので、マツダとしてはエンジンの苦手なシーンだけモーターによる効率の良い運動が実現できれば良いという潔いスタイルを貫きたいのではないでしょうか。まるでお湯を溜め込む電気ポットではなく、お湯を必要なときだけその都度さっと沸かすティファールのようですね(笑)。
マツダはあくまでクルマを能動的なものと捉え、これからも自社のクルマ作りのポイントとして、機能的価値よりも情緒的価値を重視していくようです。
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三菱のハイブリッドシステム
三菱はプラグインハイブリッドを得意とします。これはアウトランダーPHEVに搭載されるシステムで、正式名称を三菱プラグインハイブリッドEVシステムとしています。
このシステムはホンダのi-MMDに酷似していて、シリーズ方式に当たります。当然プラグイン式なのでエンジン以外にも外部からの充電も可能で、メーカーとして完全EV化への切符ともなりますから三菱の思いがアウトランダーPHEVから伝わってきます。
私としては開発が進められているという時期新型デリカ辺りがPHEVとなれば、日本のキャンプシーンも大きく変わるのではないか?と思います。三菱の出す車たちはどれも個性的で、いっときの深刻なリコール問題など未解決な問題も山積みですが、他のメーカーが作らないような面白車作りをこれからもぜひ頑張って頂きたいと思います。
スズキのハイブリッドシステム
スズキといえばS-エネチャージですね。マイルドハイブリッドと呼ばれるような仕組みです。
上にご紹介したハイブリッドシステム達はみな複雑で部品点数も多く製造コストも嵩みます。そんなことは百も承知な大企業メーカーですが、技術戦争が起きているので技術者目線の自己満足オタクシステムができあがりがちなところが玉にキズです。だからハイブリッドシステムに掛けた投資金をメーカーもユーザーも回収できないなんてことが起きています。
ところが消費者に向き合うスズキは違います。S-エネチャージはきちんとハイブリッドシステムに掛けたコストを回収できるような手堅いものです。その回収可能なコスト分の何割かをユーザーに低価格商品として還元しているのです。さすがスモールモビリティーの雄ですね。
エネチャージには普通のエネチャージとS-エネチャージの2種類がありますが、違いはセルモーターによるアシストの有無となります。日産の簡易型ハイブリッドシステムのS-HYBRIDに近いものがありますが、S-エネチャージには普通の鉛蓄電池ではなくリチウムイオンバッテリーが搭載されるところが大きな違いです。リチウムイオンバッテリーは鉛蓄電池と比較して充放電性能に優れます。その為減速時のエネルギーを効率よく充電することができるのです。
スズキのシステムはいわゆるフルハイブリッドと呼ばれる本格ハイブリッドシステムのような回生システムとは少々違うのですが、もともと現代の車に搭載されるオルタネーター(発電機)は、加速時には低負荷、減速時には高負荷を掛けエネルギーを無駄にしないように制御されているので、スズキは従来のものより発電性能の高いオルタネーターとセルモーターが一つになったコンパクトなモーター「ISG」を投入することでシンプルコンパクト低コストでありながら十分な効率を生み出す仕組みを実現することができました。
近々、この優れたシステムに似たものをダイハツが出すかもしれないという噂があります。
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最後に
各車様々なハイブリッドシステムを売りにしてどんどん新しいハイブリッドカーが誕生しています。私は今までハイブリッドカーに対して走行フィールや本質追求問題としてあまり良いイメージを持っていませんでしたが、今回ここにご紹介したハイブリッドシステムの中にはメーカーとしての物作り思想・訴求を強く感じるものなどがあり、とてもワクワクするようになりました。
なぜなら産業界が新しい技術開発競争になったとき、それぞれのメーカーが本当に望んでいる世界、つまり企業理念としてのビジョンが色濃く出るので、今後の未来を予想することができるからです。
王者トヨタからはクルマは人類の移動を支える崇高なもので、個々の遊び心を少々犠牲にしてでもライフラインとしての存在感を強めつつ次世代技術でも主権を握りに行くという強いメッセージを感じます。だから今後は皆を驚かすより高いクルマ理念を持つ新型車が誕生すると思います。
それとは対象的にエモーショナルモビリティー重視のマツダからは、やはり運転する楽しさを追求しないことにはクルマはクルマではなくなるというメッセージを感じることができます。このことからロードスターのような極めて趣味性の高い車をこれからもマツダのクルマ作りの軸、根幹として掲げていくのだと思いますし、さらに楽しい次世代カーがマツダから現れるかもしれません。
私の今の夢は、スズキのS-エネチャージをジムニーに搭載してプラグイン化し、ガソリンを気にせず環境負荷へも心を痛めること無く、自然の中で思いっきり乗り回し遊び倒すことです。スズキさん、よろしくお願いします(笑)。
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