シルビアと聞くと、「あの頃は無理して買ったなぁ」なんて、青春の1ページを思い出してしまうという方、多いです。
それもそのはず、このシルビアという車は日産が作り出した淡い青春応援カーなのですから。良くも悪くも日産らしかったこの車、デートカーやスペシャリティーカーなんて呼ばれた時代もありました。
そんあ少々気恥ずかしくなるような、パステルカラー的中立感を持ったシルビアという車の歴史に迫ります。
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シルビアってどんな車?
初代シルビアは1965年、日産から当時としてはスポーツカーテイストを散りばめられ洗練されたデザインの二人乗り2ドアスタイリッシュクーペとして、90psを出力する直列4気筒1.6Lエンジンに4速MT、FRというパッケージで登場しました。
初代シルビアは今見てもとても魅力的なスタイリングをしていると思います。力強い塊感がありますよね。
その後シルビアは沢山のモデルをリリースしていきます。2代目 S10型(1975年-1979年)、3代目 S110型(1979年-1983年)、4代目 S12型(1983年-1988年)ですね。S12型は時代を反映するリトラクタブルヘッドライトが採用されたりもしました。この流れは180SXに繋がっていきます。
若者にピッタリカーだったS13シルビア
5代目となるS13シルビアはデビュー当初から人気を博し、それまでずっと販売首位だったモテグルマ、ホンダ・プレリュードをトップの座から引きずり下ろしました。それはS13シルビアが出てきた当時、他にあまりスタイリッシュな外観を持つ車が無くて人気が集中したという背景がありました。また日本車としてはめずらしいツートンカラー仕様であることも特徴でした。
S13シルビアが生まれた1988年、日本はバブル景気に浮かれていました。人は景気が上向くと色気付くものですから、モテそうな外観を持つ車を欲しがります(笑)。より綺麗で速そうでセンスの良さそうな(今の価値観とは違いますが…)キャラクターを持つS13シルビアが注目されるのは当然のことだったのでしょう。
加えて、GT-Rなどの本格スポーツカーのように大馬力スポーツカーでもなく、ノンターボモデルのQ’sなどは新車価格でおよそ200万円から購入可能とお手頃でしたから、普通の運転スキルを持つドライバーたちからの支持も多く集めました。
ここでS13シルビアの面白いところは、後々日産の想定外の分野の人気を誇るようになっていったことです。
S13シルビアはスタイリッシュに見えるよう低いノーズ(ボンネット部分がスーパーカーのように低く傾斜していることを指す)を実現するために、FR(エンジンが前にあって後輪が回る構造)レイアウトにしました。本当は日産としても一般乗用車としてスペース効率に優れている流行りのFF(エンジンが前にあって前輪が回る構造)レイアウトを採用したかったのですが、当時の日産には低いノーズに収まるようなコンパクトなFF用横置きエンジンが無かったために消去法でFRが採用されることとなりました。
このように魅力的な外観を実現させるためのFRレイアウト選択だったのです。ところがこのFR駆動でターボモデルのK’sならそこそこ馬力のあるエンジン、それにスポーツカールックな見た目も揃っていたS13シルビアは運転好き(特にドリフト走行マニア)達に熱狂的に支持されました。加えてサードパーティーである外装屋や足回り屋など、こぞってS13用のチューニングパーツを作ったもんだからあっという間に巨大なシルビア好き走り屋マーケットが生まれたのでした。
今でこそシルビアはFRスポーツ車の代名詞的存在になりましたが、こんなエピソードがあったんですね。かくいう私も学生時代、S13には本当にお世話になりました。学生は基本的に金がありません。でも時間はありましたから、中古車雑誌のカーセンサーを毎号くまなくチェックして中古のS13を友人と見に行ったのは良い思い出です。
K’sと聞けば「おおっ!金あるんだな!」とか、Q’sであれば「ドリフト練習用かな?」なんて勝手なイメージを持っていました(笑)。何度も言うように、学生は金がありませんからターボモデルを所有すると車体価格はもちろんガソリン食いのため日々のガソリン代が嵩み、タバコ代が無くなるというジレンマを抱えてしまいます。さらに燃費の悪いモデル(FC、FD)などに乗っている友人なんかはカップラーメンしか食えなくなるという悲惨さでした。
そんなアルバイトという収入源しか持たない学生にとって、激安価格で買えるS13シルビアは正に救世主のような車でした。それこそ中古車市場には1桁台で買えるような激安車がゴロゴロありました。
初期型のシルビアのエンジンはCA18と呼ばれる1.8Lエンジンで、これがまたトラブル続きの問題児でした。さらにK’sはドッカンターボでしたからみんなでギャーギャー騒ぎながらS13シルビアで遊びました。後期型ではSR20と呼ばれる2.0Lの上質なエンジンになったのですが、アルミブロックだったためCAのほうが頑丈で好きだ!というこだわりの人もいました。
S13には似ても似つかない180SXという兄弟車がいます。
こちらも若者にはなかなかの人気で、私の周りにも初期型180SXに乗っている人がいました。もっとも、その180SXは購入後すぐに峠でペシャンコになっていましたけれども…。
本当にS13には沢山の思い出があります。
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不人気極まりなかったS14シルビア
そんな大人気だったS13シルビアも混迷期に入っていきます。それが1993年からのS14シルビア時代です。シャープでカッコよかったS13シルビアとは対象的に、S14は丸く大きくなりました。もちろんそれが良いと言う人もいましたが、あまりにも丸っこいデザインから、ガチャピンシルビアと揶揄されたこともありました。
これは当時の日産が北米市場を睨んだからで、北米市場ではより室内が大きくグラマラスなデザインが好まれるという理由からでした。また、バブル時の日本に多かった、「よりラクジュアリーな雰囲気を」というS13に対する意見を取り入れてしまったことにもよります。そして日産がスポーツ路線を止めてしまった本当の理由は、S13シルビアまで活発だったR32GT-Rに代表される901活動と呼ばれる自動車の根本改善活動に疲れてしまったことにありました。
車のポテンシャルを軒並み引き上げた現在のマツダのスカイアクティブテクノロジーに近い活動は、多くの評価を受けましたが、開発研究する日産技術部門側はそりゃもう命がけ死に物狂いの開発戦争の日々だったと聞きます。はっきりいってしまえば、「もう俺たちこんなことやりたくねーよ!」ということだったのでしょうね。
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その結果シルビアは一気に不人気車となり、それまでの固定ファンがみな離れていきました。これはシルビアだけではなく、スカイラインやローレル、プリメーラなど日産の多くの車種が軒並みボリュームアップして魅力を下げてしまった日産にとっての暗黒時代と呼べるものでした。私としてもあまり好きではないデザインです。
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慌てた日産はS14シルビアをマイナーチェンジで戦闘的なデザインに大幅に作り変えます。それがS14シルビア後期型、通称ツリ目シルビアです。
このツリ目モデル(カニ目とも呼ばれる)になってから少しだけ販売数も増えたらしいのですが、いかんせんモデル末期に差し掛かっていたS14シルビアは姿を消すこととなりました。
車の開発とは本当にデリケートで難しいものなのですね。スポーツ性として車の運動性能を高め続けるのは良いことですが、天井知らずなので作る側の職人たちを苦しめます。さらに時代がスピード重視ではなくなってきていましたから、段々シルビアというスポーツクーペの居場所が無くなっていったのです。2重苦を抱えたままシルビアは次のモデルへとバトンを渡します。
とはいえ、このツリ目仕様のいかついデザインは峠小僧達にはなかなか人気で、大柄なボディーサイズとあいまって大型リアスポイラーなどのエアロ装備したS14シルビアが、山間部などを中心に割りかし多く走っていました。
バランスの良かったS15シルビア
S15シルビアはS14で世間からの評価を落としてしまったことを反省し、いたずらにボディーを大きくすることを止め、先々代のS13のようにすりスマートな体格を目指しました。先代まで設定されていたK’s、Q’s、J’sというグレード分けを廃止し、NAモデルの「spec.S」とターボモデルの「spec.R」の2つに分かれました。
初めてS15シルビアを見た時「おっ?いけてるじゃん!!」と素直に思いました。S13のようなコンパクトな5ナンバーボディー、シャープでクールなエクステリア、250psと強力な動力性能、当たり障りのない内装と、その全てが丁度良く、とてもかっこよかったのです。
S15シルビアの良さは同じ日産車のスポーツカーであるGT-Rなどと比べて「汗をかかずにスポーツ走行できる」ところにありました。
他メーカーのランエボやインプ、それにシビックタイプRなど、どれも血気盛んな男性が乗るというイメージのある本格スポーツカーと比較して、とても落ち着いた雰囲気を持っていたので、車の方から煽られることのないある意味希少なスポーツカーといえる車でした。
そんな爽やかなオーラをまとっていたS15シルビアは、電動フルオープン仕様のシルビアヴァリエッタなども登場し、まるでイタ車のような存在感を出していきました。私の家の近所にも真っ赤なヴァリエッタを駆る長い髪の綺麗な女性のオーナーさんがいました。彼女はいつもオープンで走っていて、サングラスがとてもかっこよかった記憶があります。シルビアといえばドリ車というイメージを持っていた私にとって、そのS15シルビアはとても眩しい存在でした(笑)。
S15シルビアは歴代シルビアの中でもなかなかに高レベルなプロポーションを持つモデルでしたが、時の流れは無情で、排ガス規制+世間の風潮の変化により、2002年にわずか3年という短い販売期間で姿を消す事となりました。その後シルビアという車は販売されていません。
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シルビアを待っているファンは多い
確かにS13以降のシルビアは売上的にパッとしなかったという背景はあります。そういう時代でしたからね。でもここで諦めては日産ブランドが地に堕ちることになります。シルビアという車が愛されていた過去があるのなら、新しいシルビアを愛するユーザーもきっと存在します。
新型となる次期シルビアには、今の時代に合っていて、それでいて半歩先を行くようなセンセーショナルな車としてデビューを飾っていただきたいです。ちょうどトヨタの86やスバルBRZ当たりのライバル車としてうってつけではないでしょうか。
メーカー同士の良い意味でのライバル的な競争があると、ユーザー側も盛り上がります。今の若者はお財布事情も厳しいので決してシルビア購入には繋がらないかもしれませんが、コンテキスト効果としてノートやマーチが売れます。そして日産党になって、末永く日産にお金を回してくれるようになります。そのお金で、日産は持っと素晴らしい車を作れるようになるという好循環が生まれます。
日産さん、よろしくお願いいたします。
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