元業界人が語る中古車売却についてのユーザーが抱える本質的な問題点とは…。

ユーザーが様々な事情により車を売却される時、一番気になるのは何でしょう。一般的には、一体自分の車はいくらになるのだろうか、少しでも高く売りたい。この事だと言われていますし、ネット上でもそのことについての記事が溢れています。

ユーザー自身もそう思っておられるでしょうね、事実みなさんそうおっしゃいます。でも私は自分というものを全く信じていません。ですから相手の言葉も、額面どおりには信用していません。

こういうと 「自分を信じないで、誰(何)を信じるのだ!」 「自分を信じて前に進まなくて、何が楽しいのだ、お前の人生はお前のものじゃあないのか」「自分を信じないものが、相手を尊重したり認めたりする事ができるのか」 こんな答えが返って来て、多分炎上物でしょうね。

でも私は知っているのです。自分がいかに自分に対して嘘を言うのか、それも感心するほど巧妙に嘘をつきます。それはそうです、どう嘘を付けば効果的かは自分が一番知っていますからね。嘘を言い訳と言い換えても同じです。

私がユーザーの車に対する想いに気付いた出来事

それは私がこの業界に入って、すっかり車屋さんが板についてきた時の事です。ある中古車を納車して、そして一台の下取り車を引き取りました。といっても年式・走行距離どれをとっても商品にならない為、査定はつかず、廃車という事で引き取ることになり、もちろん廃車手数料はサービス、値段が付かない分値引きを目一杯させて頂きました。

そして次の日、電話がかかってきます。昨日の今日です、何かあったのかと慌てて電話に出ると、昨日のご主人です。昨日の下取りした車のハンドルが欲しいとの事。その時思い出したのです、あれからすぐ解体屋さんに連絡を取り、その日のうちに引き取ってもらったことを。そのことを告げると、電話の奥でおくさんの泣く声が聞こえてきます。私は後で連絡を入れると約束したあと、解体業者にもしまだ潰していないなら待ってもらうように電話をして、すぐに工具箱を持って解体現場に向かいました。

幸いに、車はそこに昨日のままの姿で置いてありました。その時のホッとした気持ち今も時々想い出します。

その夜、ご自宅を訪問しハンドルを渡したときの奥さんの満面の笑顔、御主人の話によると付き合い始めた時から、この車で色んな所に出掛けられたそうです。その時、私にはただのスクラップ行きの車が、ユーザーにとっては特別な物だと気づかせられた瞬間でもありました。帰り際に渡そうか迷っていたチェンジノブを取り出したところ、また泣きながらお礼を言われました。どうみてもカーショップで売られているとても高級そうに見えないチェンジノブ、ついでだと取っておいたものです。

下取り時と買取り時の、車を手放すときの違い

それ以来、下取りする時、買取りする時など車を手放すときのユーザーの事が気になり観察するようになりました、そして気付いたことがあります。

次の中古車を買うため今の車を下取りに出すお客様と、売却されるお客様には明確に違いがあります。

下取りに出すお客様は新しい車に関心が向かい、下取り車には案外あっさりしているように見えます。査定金額ももちろん気になるのでしょうが、たとえば下取り100万円値引き2万円より下取り97万円値引き5万円の方が決めるポイントになります。朝三暮四をリアルに体感している現場です。

先のご主人も同じでした、新しい車に夢中で、下取り車にはさほど気を向けていませんでした。自宅に帰ったあと、奥さんの態度で、事の重大さに気が付かれたのでしょう。奥さんに対して、申し訳なかったという態度がみていてよくわかりました。

これは、他にもよくあることで、忘れ物が多いのも特徴です。一度なんか下取り車のトランクに電気工事の仕事をされておられるのでしょう、プロ用の仕事道具を忘れて行かれた方もおられました。商売道具を忘れるなんて、それだけ新しい車の事で一杯なのでしょう。納車の際には注意が必要です。

一方、買取りのお客様は違います。当たり前ですが、金額にこだわられます。でもどう見ても、その努力と金額が合わないように見える時があります。かなり回られたのでしょう、その様子が見て取れます。もう目一杯のはずです。それでもあと一万円といって帰って行かれるのです。そして何時間か経って帰ってこられます。どう見ても努力と金額が釣り合いません。まあ、査定金額は定価ではないので、ひょっとしてという事がないとは言えませんが。

しかしです、その一方で全く逆の方も少なからずおられます。値段交渉なんかまったくされない方です。この地域性を考えると、信じられません。その場で「車を置いていくから、近くの駅まで送ってくれ、お金は、印鑑証明を用意したら連絡するのでその時持ってきてくれたらいい」、とまで言われる方もおられます。もちろんそんなことできません、預かっているうちに何が起きるかわかりません。もしお客様の気が変わり、取りやめになった時、預かった時と状態が違っていたら。もし悪質な方だったら、中に入っていた物が無いと言い出すかもしれません。そこで丁寧に後日引き取らせていただくと、説明させて頂くことになるのですが。

一体この違いは何なのでしょう、この方々ははした金なんか目に無いのでしょうか。それとも煩わしいことが死ぬほど嫌なのでしょうか。どちらも理由としては納得できないものがあります。さりげなく、御本人たちにこの値段でよろしいでしょうかと聞いても、あっさり構わないと言うのみです。でも「大事に使っておられますね、この車だったら近郊ドライブには最適でしょう」と、買取りには何の意味のない会話を振ってみると。途端にそうそうこの時期だったら・・・と雄弁になられます。まるで今まで抑えていたものが取り払われたかのようです。

私はこう思うのです。違っていても、元は同じ

わたしはこう思うのです。少しでも高く売りたい方も、安くても早く売りたい方もみんな同じだと。その根底には、喪失感があるのだと。

その車での想い出だけでなく、時々掃除機をかけたり、ワックスを掛けたり、オイル交換したりと手間をかけ、朝出勤するため玄関を出ると、視界の片隅に自分の車を無意識にも眺め、酔って帰ってきた時は、我が家の車を見つけて、ああ、帰ってきたと安心したり。その方の生活に他の生活品とは違うつながりが、意識せず深く入り込んでいます。

車を手放すとき、その喪失感を埋めるため、これだけ高く売って得をした、だから売ってよかった。一番高いかどうかわからないけど、これだけ努力したのだから売ってもよかった。この様な論法で自分を納得させようとします。そのため喪失感が大きいほどその行動はより過激になります。

一方逆にその喪失感から目を背けるという方法があります。敢えてそんなもの無かったことにして、通り過ぎるというものです。売却する時自分は何とも思ってないよ、と
言い聞かせて、あっさりと終わらせます。

問題はどちらを選んでも、解決にはならないということです。どちらを選んでも、家に帰って空っぽの駐車場を見るたびに、喪失感は蘇ってくるでしょう。

それではどうしたらいいのでしょう。その方法を実行に移したのはそれから10年以上たってからでした。

私が実行したユーザーの喪失感を埋める方法

それは、私が独立して自分で中古車店を開いてからの事です。私は、買取り・下取りした車を、お客様と一緒にポラロイド写真に撮り始めました。そしてそれをお客様にお渡し、許可を頂いて一枚を事務所のボードに貼らせて頂きました。抵抗のある方は見えないところに、構わないと言って頂いた方は見えるところにと、分けて貼りました。その後、客様自身で貼って頂くようにしました。

なぜそんなことを始めたのか、お判りでしょうか?

わたしは、何となくのきれいな言葉が大嫌いです。そこに納得できる物(理屈が通っている)が無ければ、まずうそ臭いと思っています。そこで答えを見つけようとする時も、一つ一つ順に考えていきます。この問題も順番に考えた結果なのです。

こんな風に考えてみた

まず出発点は、この問題は喪失感にあるという仮定から始まります。それが正しいか、間違っているかは、出てきた答えが現実に合っているかどうかで決まります。

人が喪失感を感じる最たるものは、近しい人を失った時です。その時人はどう乗り越えるのでしょう、乗り越えずとも、どう自分に納得させるのでしょう。

それは、お葬式です。お葬式は死者を弔うと言いながらも、実は生きている人のためなのです。なるべく多くの人に来てもらい、その人たちと亡くなったという事実を共有するためのものなのです。その為に、あの必要かどうかよくわからない長い儀式が使われます。そうしてやっと亡くなったという事に、納得がいくのです。

それでは、愛車とのお別れはどうしたらいいのか、その答えが先の写真なのです。これはお客様には言いませんが、墓標の意味もあるのです。そしてそれを貼るという事は、それに自分自身も参加し、私たちもその儀式に参加するという意味があります。

貼り終わった後、明らかに表情が変わります。一仕事終えたようなホッとした様子が伝わってきます。

実際の商談現場

ここからが重要で、このままでは単なる慈善事業になってしまいます。教会だって、お寺だって、あの中にいる坊主だって、仕事の一面を持っています。ましてわたしは車屋です。仕事の役に立たないものは、プライベートでするものです。

これは、商談に役立つはずだという見通しのもと、置いているのです。商談はすべてこのボードが視界に入る所でおこないます。そうすると愛車を売りに来られたお客様の関心が値段から、写真に移ります。まず第一段階、頭の中にある値段一辺倒を、逸らします。関心を値段から愛車の想いへと移すことに成功すると、商談が進みやすくなります。

もちろん、査定はキチンと行います。そこをいい加減にすると、むしろ不信感を与えることになり、逆効果になります。その代わりキチンと査定していることが伝わると、出した金額に納得して下さるのです。そして自分で写真を貼ることを楽しみにしてくださいます。

これで喪失感というものが無くなるわけではありません。そんな簡単な物ではありません。やはり自宅に帰られた時、空っぽの駐車場を見て淋しさに覆われるでしょうが、きっとそれには懐かしさが伴っていると思うのです。喪失感の中にも懐かしさ、これが私の意図したものです。

その後の予想しなかった効果

実はこれには予想しなかったことが起こりました。リピーターが増え始めたのです。考えてみると、当たり前の事ですが、自分の歴史がここに飾られているのです。また車が必要になったと、来てくれるのです。これは本当にありがたかったです。

通常中古車店はリピーターなんかめったにありません。勤めていた時もあれだけ販売や買取りしてきたのに、売ったり、買ったりした後はほぼ完全に縁が切れていました。その為リピーターを意識したことはなかったのです。

最後に

ここまで書いてきて、なんだかすごくいい話のように見えていることに気付きました。これはマズいです。好感度が上がってしまいますので、少し下げさせていただきます。

最初の写真20枚ほどはサクラです。

【特集】はじめての車買取査定~書類準備や電話交渉、段取りの詳細AtoZ




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